愛・醜悪・無垢・憎・平和・凄艶・残酷・淫猥
光と闇が交差する、めくるめく世界。
 
黒澤優子、渾身の250頁書き下ろし短編集。
 
 
 
91歳のおばあちゃんが8年の歳月をかけて
描いたマンガの本が出来ました。
 
 
 
『トウモコロシ』の世界観を知るために。まずは『ミカ』でご堪能ください。

電子絵本『ミカ』
 
黒澤優子:文 長谷川崇:絵
 
金川信亮:製作
 
 
高校生の恋愛・友情・人間模様を描いた物語。
 
特設サイトはこちらです
 
(サイトを開くとBGMが流れますのでご留意ください)

イラストを描いている様子のムービーはこちら↓

 



 
 
 
製版会社で15年ほど進行管理をやって働いているうちに、
門前の小僧何とやらで、一冊の本を作るために
必要なデータの作り方をだいたい憶えてしまった。
 
もともと唐沢商会の『脳天気教養図鑑』の影響で
神保町や早稲田の古本屋めぐりが何よりも好きだった。
写研の書体はDTPでは使えず、昔の本のハッとするほど
美しい組みはMacではできなそうだが、
エディション・イレーヌのように独自の選定眼と編集で
少部数限定の美本を造っている人たちもいる。
ああいうものを、いずれ自分でも造ってみたい。
出版事業者として本を出して書店に流通させるための
ノウハウは2ちゃんねるで全部知った。
そのスレッドを10年保存していた。いつか使ってやろうと思っていた。
 
勤めていた会社が倒産し暇になったので、
とりあえずISBNコードを取得して、それっぽいドメインを取った。
形ばかりのWebサイトを作って工事中の札を掲げておき、
なんとなく個人で出版関係っぽいことを
やっているということにして次の仕事を探し始めた。
 
そしたらなぜか次の仕事があっという間に見つかってしまった。
似たような業界だ。また忙しく働き始めた。
せっかく取得したISBNコードも全く使わないまま
日々は過ぎていった。サイトは放置していた。2年経った。
 
 
 
「私、実は作家志望で。短編集を書いたんで、出版したいんですよ。」
 
 
職場で知り合った黒澤優子はそう言った。
 
 
「これは、そんなに売れる内容じゃないけど。
私はそのうち有名になってベストセラーをバンバン出すから、
そこからさかのぼって売れるんですよ。」
 
 
と彼女はこともなげに言った。
大口を叩いているふうでも妄想に取り憑かれているふうでもなかった。
 
 
 
そこで「実は俺、出版事業者としての資格みたいなものを持ってるんだよね~」と明かして、
彼女が書いた原稿を読ませてもらうことになった。
 
 
 
 
送られてきた原稿は長大なものだった。
 
 
 
大急ぎで目を通し、次のような返事を出した。
 
――――――――――――――――――――――――――――――
黒澤さま
 
お疲れ様です。大急ぎで読ませて貰ってます。
あれだけ言うからには書けるんだろうと思っていたので
全然驚かなかったけどそれでも予想の斜め上を行ってるところもありました。
 
(中略)
 
まだ全部読めてないけど僕の好みを言っていいですか。
トウモロコシとサファリとベルゼブブが好きです。
あと記念写真も好きです。
豚のうっちゃりブラックユーモアも好きです。
ザクロも意外と好きです。
作風の幅の広さとナルシシズムの皆無と
どれも安定していて危なげがまったくないところが凄いですね。
 
美しい本を造って世に出すのは夢だったので幸せです。
 
下北のヴィレヴァンでサイン会やろう!
ロフトプラスワンで著者朗読会やろう!
 
(後略)
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
これに対して、彼女からは大変喜んでいる旨の返事が来た。
それまでは誰に読ませてもいたずらに嫉妬されるばかりで、
ちゃんと評価されたのは初めてだったそうだ。
 
しかし、これだけのものを商業的に成功するように出版するとなると、
個人としての自分の手に余る。資金調達力と宣伝力のある企業の力を借りたい。
 
 
これと前後して、仕事で知り合った長谷川から、
彼のやっている会社に入らないかとの誘いを受け、
ほぼ二つ返事で快諾していたので、
会社の最初のミーティングにこの出版ネタを持っていった。
 
長谷川は起業家として、様々なコンテンツ発信を
やっていきたいと考えていて、電子書籍などにも興味があるふうで、
こういう出版事業ならまさにうってつけだということで、意気投合した。
 
 
そこで原稿を読了して組版作業を終えたあと、黒澤優子に次のようなメールを送った。
 
――――――――――――――――――――――――――――――
黒澤さま
 
お疲れ様です。一応、状況報告です。
 
ひととおり読ませて貰って組み終わりました。
誤字も少ないし疑問もほとんどないです。
 
280頁ほどになりました。ハードカバー上製本で
1000部ぐらいは刷りたいですね。
 
いい本になると思うので大々的にやりたいのですが、
そうすると僕個人だけでやるには手に余るので、
今日、イベント企画やアイドルプロデュースなどの
コンテンツ発信をやっていて今後出版事業も
やりたいというベンチャー企業の方に打診してみました。
(実は黒澤さんもよくご存じの方です。)
 
そしたら是非うちで出版したいという返事で、
そのプロジェクトは僕が中に入って
責任をもって進めますので、そのようにしていいですか?
 
(後略)
――――――――――――――――――――――――――――――
「黒澤さんもよくご存じの方」の心当たりが
なかったのか不安そうな返信が来た。
そこで別の仕事でよく一緒にやっている長谷川だということを明かして
安心して貰い、ここから三人四脚での書籍出版への道がスタートして今に至る。
 
Kanagawa拝。
 



 
私と本について少し語ってみたいと思う。

高校生の頃に、坂本龍一を聴いてた繋がりで
村上龍の本を手にしたのがキッカケ。
知的好奇心というよりは、
「小説なんて読んでる俺って格好いい」という
知的虚栄心の方が先行していたように思う。

村上龍・坂本龍一にはかなり強い影響を受けてて
二人の攻撃的なスタイル(相容れない対象には容赦しない)に憧憬を抱いてた。
というかその真似事をうそぶいてた若かりし頃。

村上龍だと「コインロッカーベイビーズ」が代名詞だがちょっと強烈過ぎて
読みあぐねた感がある。パワーが強すぎて目眩がした印象。
「映画小説集」や「ヒュウガ・ウイルス」
「オーディション」「心はあなたのもとに」など
程よい熱量であるこれらのラインナップが好み。

村上龍といえば村上春樹で、今でも
一番好きな小説は「国境の南、太陽の西」。
小説全体には諦念が漂ってるけど、やれやれと言いながら
ちょっと前に歩んで行く感じがなんかいいのである。

太宰治~谷崎潤一郎~三島由紀夫~川端康成~夏目漱石などを
つまみ読み。太宰治とか今読むとどういう感懐を抱くんだろ!?
ドストエフスキーやトルストイなども読んだが
海外文学はベースにあるキリスト教への理解が無いと
あまりピンとこないのか、読むのが大変だった記憶しかない。

小さい頃は学校とかで「本を読みましょう」って教えられるけど、
文学作品って大抵の内容が”変態”だったりするよな。
だから読み過ぎるとあんまりマトモな大人にはならないような気がする。
ものすごくパーソナルな変態性が、ある一定の普遍性を有したものが
優れた文学作品といえるかもしれない。
「あー俺こんな変なこと考えてたど、同じような事を思ってた人もいたのね!」

T.HASE拝