愛・醜悪・無垢・憎・平和・凄艶・残酷・淫猥
光と闇が交差する、めくるめく世界。
 
黒澤優子、渾身の250頁書き下ろし短編集。
 
 
   
 
『トウモコロシ(黒澤優子 著)』収録の一編、
『記念写真』を全文公開します。ぜひご拝読ください。

 


『トウモコロシ』
黒澤優子 著
単行本: 254ページ
定価:¥1,700(税別)
出版社: 株式会社パイレーツ大阪
ISBN-10: 4990808401
ISBN-13: 978-4990808402
発売日: 2015/2/17

 
「記念写真」
 
穏健でヒューマニスティックな家族愛と過激でバイオレントな錯乱が同居する、
集中もっとも身につまされるような諦観と絶望の色濃い作品。
あきらめは救いと背中合わせになり、そこから光明が差し込む。
地味なようで地味でなく、この短編集の巻頭を飾るにふさわしい。
 

「ザクロ」
 
少女から女への過渡期に揺れ動く乙女心を描く。無邪気な子供も友人の
 無自覚的な裏切り・非承認・残酷に接して戸惑いと懐疑を覚え、スレていく。
 母と娘の二人暮らしは娘に母の〈女〉を教える。
 しかしこれらのテーマから人が想像するようには
 決して暗くも重くもなく、むしろ非常に軽妙でポップである。
 

「ポリスマン」
 
 不条理な暴力劇、凄惨なサイコスプラッターホラーであり、
人称の混乱が読む者を不安に陥れる。暴力のエクスタシーは
性的絶頂と二重写しになるが、それは誰もが経験的に知っている
仕事による達成感とも重なっているので読後感は意外にさわやかである。
 

「イチゴ狩り」
 
不条理な暴力劇、凄惨なサイコスプラッターホラーであり、
人称の混乱が読む者を不安に陥れる。暴力のエクスタシーは
性的絶頂と二重写しになるが、それは誰もが経験的に知っている
仕事による達成感とも重なっているので読後感は意外にさわやかである。
 

「滴」
 
この世界の外部にいるかのような一人の少年の目によって、
因襲というものの愚かしさが抉り出される。少年はなんらかの病気で
動くことも喋ることもできないが、病院のベッドに横たわったまま
透徹した目で世界を見ている。少年は静かで礼儀正しい革命家だ。日常は淡々と進む。
 

 
「豚」
 
対照的な三人の女の語りを軸に物語が展開する。
ひとりは外部からやって来た美しい寡婦、
ひとりは家庭的だが永らく結婚に縁のなかった中年女性、
ひとりは裕福な家庭を切り盛りする奥さんとされている。
しかし裕福な家庭は妄想かもしれないし、
寡婦も中年女性もいつまでも家庭に無縁ではいない。
雨の日には何かが起こる。構成は神話的なまでに幾何学的である。
 

 
「Jam」
 
若い女性のセックスと妊娠に関する一人称告白体という
世にありふれた設定もこの短編集の中にあっては異質な輝きを放つ。
海辺での女の遍歴は男に妊娠を伝えて当惑されたことへの
失望を象徴的に表現している。色彩と匂いの氾濫、
夜と昼の強烈なコントラストが織りなす散文詩のような一篇。
 

 
「サファリ」
 
悪夢のような趣の、切れ味鋭いショートショート。
愛想笑いや作り笑いは人間関係の潤滑油ではなく、
もがいても抵抗のない真空のような自己欺瞞で
われわれの精神をむしばむ。
 

「a man of straw」
 
失踪した息子を探す父親の心象風景は荒涼とした死の砂漠である。
それは献身というものの残酷な報われなさを表す。
しかし長い旅路の果てには渇きの円環が閉じる。
人は何かを求めて旅に出て、結局、自分自身へと回帰する。
砂漠の終わりには生命の萌しがあり、
この悲しい物語のエンディングも決して暗い印象を与えない。
 

「トウモコロシ」
 
解説不要のシンプルな傑作。人間以外のものの奏でる、
優しく温かくユーモラスな人間讃歌。ここには夢と希望が溢れ、
生きることの喜びが行間に踊っている。
つねに光明と暗黒を描く、幅広い作風を持つこの作家の一方の極を示す。
 

 
「ベルゼブブ」
 
あらゆる女と男の関係性へ迫り、愛の形を根源から問い直す問題作。
あらわな不道徳が読む者の常識をかきむしる。
端正な文体、切羽詰まった息遣い、鮮烈なイメージの奔流。
批評にはこの作品をはかる尺度がない。文学の極北。
 
 
 
(解説:金川信亮 イラスト:長谷川崇)

 
 


 
『トウモコロシ』所収の作品群は作者が発表のあてもなく十年以上の歳月をかけて書きためた短編小説である。これだけのクオリティと物量のものを独力で書き上げ、本というカタチにするまでには、想像を絶する執念があったに違いない。しかし、いま目の前に届けられたこの作品集を読む私たちの胸を打つのは、なんとも奇妙な静けさである。ここには自己顕示欲もなければ批判もない。
 
キャラクターは際立っていて、グロテスクで騒々しく、ヴィヴィッドで今にも本から抜け出してきそうだ。読者である私たちにも身に覚えのある想い、感情、自己肯定と自己否定の狭間に揺れ動きながら、誰もが精一杯に命を燃焼させて生きている。優しく手をさしのべられることもなく、突き放されて。
 
作者・黒澤優子はこの初の自著を、ちょうど誕生日を迎えた友人の1人にプレゼントしようと思った。しかしすぐに「軽々しく人にあげる本じゃないな」と思いとどまった。お金を出して買ってくれる人だけに届けたい。これはこの短編小説集の本質をよくあらわすエピソードかもしれない。
 
というのも、読書の気持ちよさを提供するような作品ではないからだ。ポップで軽妙洒脱な文体の裏にも棘と毒があり、体力の落ちているときなどに読むと鬱病になりかねない。この世のたてまえを剥ぎ、あまり直視したくもない真実をグサグサと突き刺してくる。ひょっとしたら多くの人にとって、このようなモノは一生に一度も触れることなく通り過ぎたほうが“賢明”なのかもしれない。しかし通り過ぎることのできない一部の人にとっては、この本は、世界を変える一冊になるかもしれない。読み終えたあとでは見慣れた景色が全く違って見え、自分のうちに全く新しいのもが芽生えてしまったように感じる、そういう一冊になるかもしれない。
 
たとえばあなたが不治の病を得て、余命3ヵ月を宣告され、家族や恋人、友人達との別れを済ませ、この世の名残を惜しんでいるとき、死の準備のあいまにでも、醜悪で美しい『トウモコロシ』を手にとって読んでほしい。また、あなたが心ならずも兵士として戦争へ行かなければならなくなり、砲弾の飛び交う戦場で、ひとときのいこいに飯盒で炊いた粥をすすっている夜、人間の愚行をすべて無言で赦しているような『トウモコロシ』をそっと鞄から取り出し、月と星の明かりで読んでほしい。たぶんそれがこの本にとっての幸せだから。
 
ブルースが人生のどうにもならなさを否定も肯定もせず、それと共に生き、並走していく音楽だとすれば、この本はブルースだ。聴き取ってほしい。善悪も美醜も快不快も、すべての二項対立を無化して、無限のふところの深さで奏でられる人間讃歌のこのメロディーを。この静かな叫びを。
 
(文:金川信亮)

~読者の声~
 
たくさんの方々に読後の感想を頂きました。有難うございました。
 
『解説よんだだけで、とても深くて、核心をつかれるかんじなんだなって伝わってきた(40代 主婦)』
 
『触れたら血がでそうな、キレキレの文章 この感覚わかりすぎる(40代 既婚女性)』
 
『そういや本届いて一気に読んだよ。面白かった。
重くてドロドロしてて、それに当てられて2~3日はメンタル沈んだ笑
沈んだといってもネガティブな感じじゃなく、
人間とか女の本質みたいな部分を読めた気がして良かった。
感想も、言葉にするとなんか味気なくなっちゃう。
とにかくドカンときてすごく面白かったんだよ。(飯村潤 40代 カメラマン)』
 
『ベルゼブブ書いてたときは、どんな精神状態だったの? ほんとにすごい』
 
『まだ読んでないけど。なにがすごいって、あの装丁とデザイン!! あのメガネやるな!! 』
 
『何とも言えない嫌~な感じ。女の黒さに比べたら、男の黒さの、なんて可愛いこと。
だけど、女の黒いなりの不器用が少しだけ、愛おしい。俺は衝撃で、寝る間も惜しんで、2日で読んだ』
 
『ファンシーで、くうさんの深さがすこしみえた。最後のは大変よかったです。
アサヒ芸能で読みたいと思った。なまじ、射精するより、満足して眠りました』
 
『何とも言えないオリが残る。でもそれが、嫌じゃない。
離婚問題で、どん底だった俺は、この本でどこか、救われた。
どこかって言われると、うまく言えないんだけど。
とにかく、書かれている視点が多種多様で。
まったく違う視点から各登場人物の心情が描かれていて、とにかく斬新。
その登場人物がどっか不器用でゆがんでいるんだけど、
そこに作者の批判がまったくなく、ある意味、俺もこれでいいんだと思えた』
 
『オリが残りそうだっていうのは、ミカを読んでなんとなく感じた。嫌なつめ跡が残りそうな感じ。
でも、それ聞いて、読みたくなった。腹くくります』
 
『登場人物が別な人格として、あんなにきっかり、別れているのが、すごい。
普通、作者の好き嫌いが反映されて、どこか似通ったりするのにそれがない』
 
 
『寝る前には絶対読めない。本と、私の時間!って感じで特別な時間。とにかくその世界にひきこまれる』
 
『いま、イチゴ狩り読んでる。ここまでの中で、ザクロが好き。
思い出したのは、小学校のとき好きだった女の子のこと。
あと、蟻穴から出てくる蟻を順番にクリクリ丸めながら可愛い声で笑ってた弟のこと。
記念写真もすき。初めて友達を、拳で思いっきり殴りたおしてしまった感触が蘇った。
そしてポリスマンで、黒澤優子はただものではないと思い知らされる。
物語を読む前にその作家のことをら先に知るという初めての体験。
物語の中に引き込まれる際のなにか障害にならないかと心配したのだけれど、いらない心配だった。
優子さんの語る物語は、脳の中の、記憶ではなくて、
筋肉や細胞に宿る記憶を思い出させるね(アーティスト Keiji Matsui)』
 
 


~トウモコロシの装幀~
 
今回の出版は、少ない予算の中で、ちゃんと栞ひももついたハードカバーの
美しい書籍を作ろうというチャレンジでもあった。
そのために造本設計はすべて社内でやり、表紙周りのデザインだけを外部にお願いした。
 


 
「シンプルで非装飾的、かつ鮮血のしたたるようなイメージで」という
こちらのリクエストに完璧に応えてくださった。
デザイナーの半崎真太郎氏、ありがとうございました。
 

これが最初の腹案。おおまかなところではほぼこの通りに進んだ。
丸背の予定だったが、デザインを見て「これは絶対角背だ!」と
思ったので変更した。帯については、
つけないという案もあって最後まで難航した(後述)。
 

 
カバーはヴァンヌーボVGホワイト46/130kgに全面マットニス引き。
イラストがかなり細かいんだけど綺麗に出てよかった。
 


 
表紙と見返しの用紙は色だけ決まっていても銘柄を絞りきれずに悩んでいた。
神保町の竹尾見本帖本店さんへ何度も足を運んだが、見れば見るほど迷う。
そんなある日、ふと頭に「シンプル」というワードが舞い降りて、
そうか、これだな、と決めた。
表紙=NTラシャ濃緑46/100kg、見返し=NTラシャ黄色46/100kg。
 

扉はOKカイゼル白46/80kg。
これはわりと直観で決めて、その後いろいろ悩んだけど結局最初に決めたものを採用。


帯の作成はほんとにギリギリだった。
つけない案もあったけど、ないとやっぱり寂しいので本文データの下版後に作った。
入れる文字要素は入稿リミット数時間前に著者と編集者がチャットで決めた。
用紙は、背の会社ロゴを透けて見せたかったので、
クラシコトレーシングFS星くずし うす黄41kgにした。
瀟洒ないい感じに仕上がったと思う。ニス引き、スミ1色刷。
 

バーコードとスリップ作成については
有限会社スタジオ・ポットSD様のフリーウェア
100%お世話になったので記して謝意を表したい。ありがとうございました。
 
ちなみに本文用紙は定番のラフクリーム琥珀N 46/71.5kg。これは印刷会社さんにご提案いただいた。
 
(kanagawa拝)
 
『トウモコロシ』に関わって頂いたすべての方々へ、
ここに感謝の意を表します。

 


『トウモコロシ』
黒澤優子 著
単行本: 254ページ
定価:¥1,700(税別)
出版社: 株式会社パイレーツ大阪
ISBN-10: 4990808401
ISBN-13: 978-4990808402
発売日: 2015/2/17

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